スタジオエイトカラーズは2021年7月に高知で設立された手描きアニメスタジオです。
3名の経営陣はアニメ業界に長く携わり、豊富な経験と知識をもっています。
高知県はこれまでマンガを中心としたクリエイターの育成に取り組んできたこともあり、スタジオエイトカラーズは高知の地から新たなクリエイターの発掘、育成を目指しています。
今回は、代表取締役の宇田さん、取締役の伊藤暢啓さん、伊藤陽介さんにお話を伺いました。
3人の経営陣が高知に集結
左:伊藤陽介さん、中:宇田さん、右:伊藤暢啓さん
ーースタジオエイトカラーズさんは何をされている会社なのか教えていただけますか?
宇田さん:高知県初の手描きアニメーション制作スタジオです。
高知県の帯屋町に事務所を構えて7月15日に創業しました。
アニメ制作は今はCGやストップモーションなども出てきていろんな手法がある中で、我々は手描きでやっています。
日本がやっている伝統的なアニメの制作手法をそのまま高知で行っています。
今は東京のスタジオと連携しながらの業務が主流ですが、最終的には高知県でも企画、制作、流通までできるといいなと思っています。
それぞれの経営メンバーが東京でのアニメ業界のネットワークをもっているので、東京の仕事やつながりがあるのは強みかなと思いますね。
伊藤暢啓さん:役員それぞれが東京に別の法人をもっているんですよ。
僕は2021年3月まである会社の役員をやっていてアニメスタジオの経営をしていました。
そこを退任してからはフリーランスのプロデューサーとしてデジタルコンテンツ企業の経営コンサルをやっていました。
なので、東京で事業をやっている3人が意気投合して高知に地方発のデジタルアニメスタジオを創るというコンセプトで高知に来ました。
地方がこれから魅力的なクリエイティブを作れる場所になる時代が来るだろうと思っています。
アニメーションの歴史は東京一極集中なんですよね。
練馬、杉並、西東京に9割ほどのアニメスタジオが集中しているので、地方にスタジオを増やしていく活動をしていこうと。
その中で第一弾として高知を選びました。
ーーなるほど。なぜ高知を選ばれたんでしょうか?
伊藤暢啓さん:一番魅力的なプロポーズをしてくれたからですね。
6年ほど前にある方から「高知に事業を展開できませんか?」と言われていました。
そこから6年間セミナーや交流会に参加して関係を作ってきて、地方でやるんだったら高知が一番即効性があるからと2人を誘いました。
僕は20年以上アニメ業界の経験があり、2人も長年の経験があるので、2人のリソースをつぎ込んで高知にスタジオを作ろうというところが始まりですね。
ーー3名それぞれが会社をもたれているのは驚きました。
宇田さんと伊藤陽介さんが経営されている会社についても簡単に教えていただくことは可能でしょうか?
宇田さん:僕はスタジオコロリドという映画やCMを制作している会社の創業者であり、今も顧問というかたちで関わっています。
スタジオコロリドは映画中心の会社で「ペンギン・ハイウェイ」や「泣きたい私は猫をかぶる」などの映画を制作しました。スタジオコロリド創業時からのこだわりとしてデジタルを活用したアニメ制作に取り組んでいて、設立から10年が経ち原点回帰の気持ちとともに今後の新しいデジタルの取り組みをしたいと思って、2020年にノーヴォという会社を設立しました。
基本はスタジオコロリドと同様にアニメ制作に関わる仕事をしていますが、ノーヴォでは制作だけでなくデジタル開発や地方進出などアニメに関わるビジネスの発展に寄与する会社でありたいなと思っています。
会社の目的としてはアニメクリエーターをもっと増やしたいというコンセプトのもと、新しい仲間とともに新しいチャレンジを行っています。
もともとはスタジオコロリドでも地方スタジオをやりたいとは思っていましたが、今回ご縁をいただいて僕のキャリアでは初めてとなる高知で地方スタジオを作ることができました。
伊藤陽介さん:僕はもともとアニメのプロダクション出身で、手描きアニメーションのプロデュースマネジメントをやりつつ、映像を作る中での管理や経営をずっとやっていました。
東京でアニメ制作の会社を立ち上げて、プロジェクトごとに適任の方に外注して作品を作っています。
最近は自分の会社でオリジナル案件を大手のクライアントさんと開発しながら、活動しているところです。
地方から何かを創り出したい
ーークリエイターの方々との結びつきや管理ができれば、大型プロジェクトにも携われる可能性はあるのでしょうか?
伊藤陽介さん:そうですね。基本的にどのアニメプロダクションでも作品を作るときに自社内で完結することはほとんどないので、外注してフリーランスの方と一緒に作り上げていくことが多いですね。
もともと地方アニメには興味をもっていて、地方で何か新しく創り出したい気持ちはずっと前からありました。
そして幼少の頃高知に住んでいたこともあり、過去に住んでいた思い出が残る高知で会社を立ち上げるとのことで、関わらせていただくことになりました。
ーー想いと住んでいた場所がタイミングよくリンクしたんですね。
伊藤暢啓さんには先ほども少しお伺いしましたが、いかがでしょうか?
伊藤暢啓さん:わたしは25年ほどアニメ業界で仕事をしています。
12年前にグラフィニカというスタジオを起業して、一番多いときでは従業員が300人ほどの規模で、東京を拠点に札幌、京都、福岡のスタジオを立ち上げました。
今はグラフィニカの役員を退任してフリーランスになり、東京で何社かの経営コンサルをやりながら、2人を高知に誘ってスタジオを作ったという経緯ですね。
高知はアニメ文化を応援してくれる場所
ーー高知で新しく経営者を任命する発想はあったんでしょうか?
伊藤暢啓さん:アニメという産業自体が地方にはないので、まずは地方にマネジメントができる人材はいない前提で考えないといけないと思っています。
我々が高知でお手本を見せて人材を育て、将来的には引き継げばいいかなという感覚ですね。
ここ何年かで十分リモートでマネジメントできる実績ができて、3人が高知で生活をしなくても経営マネジメントとしてスタジオが作れる見込みがたったところでこのスタジオをスタートしました。
現場のクリエイターを発掘することが我々の第一目標です。
ーーまずは事業として高知を拠点に発展させていくということですよね。
伊藤暢啓さん:そうですね。
若い人の才能はどこに行っても変わらないと思いますが、地方に行くと「アニメなんて仕事になるのか」「マンガなんてやってるんじゃないよ」という声はどうしてもあると思います。
ただ、高知はマンガ文化を応援する部分がすごくあるので、そういう意味でアニメの制作活動やアニメの会社に就職すること対して柔軟に見てもらえるんじゃないかなというのはありますね。
高知は応援してくれる場所だなとここ数年のお付き合いの中で感じたことが大きいですね。
伊藤陽介さん:僕が高知に住んでいた小学生の頃に図書館にジャンプが置いてありました。
今では無料でマンガが読める「高知まんがBASE」もあるなど、高知はエンタメと触れ合う機会が幼少の頃から多いと思います。
そのような場を提供している県は他にないなと感じますね。
何年後かに高知から作品を制作することを目指す
オフィスの様子
ーーたしかに応援してくれる文化や体制は高知県ならではかもしれないですね。
まずはクリエイターの発掘から育成までが短期的なミッションとしてあるかと思いますが、2〜3年後など中期的にはどんな絵を描かれているのでしょうか?
宇田さん:まずは人数だと思っていて、アニメ、マンガの仕事ができる人を増やすことが会社の目標でもあり、高知県への参入思考でもあります。
一方で、クリエイティブコンテンツに関わっている我々としては、作品を作ることにつなげていかないといけないなと思っているので、何年後かにはスタジオを代表する作品制作をして発表することですね。
高知信金さまからCM発注のご依頼をいただいたことを皮切りに、我々がしている仕事を様々な形で発表していけるといいかなと思います。
ーーこれからスタジオエイトカラーズさんに興味をもたれて働きたいと思う人も増えるかと思いますが、知識やスキルが必要で制作までの過程は容易ではないと思います。
将来のクリエイターに期待することはなんでしょうか?
宇田さん:デッサンができてアニメ制作の知識があってなど細かいことはもちろんありますが、原理原則論でいえば、必要なのは「好きか嫌いか」だと思っています。
好きである人のモチベーションが花開くことの方が多いですし、伸びる要素だと思うので、期待するのは絵を描くことが好きでそれを仕事にしたいというモチベーションが高い人ですね。
そういう人であれば結果的に探究心や勉強する努力につながっていくと思います。
伊藤暢啓さん:アニメーションは毎日のように放送されていて多くの人はそれを見ていますが、それを仕事にすることはものすごくハードルが高いとみんなが思っていると思います。
「どうやってあんなアニメーションを作っているんだろう」と。
ですが、日本のアニメーションは分業制が進んでいて、当然絵が描ける人はチャンスはありますが、絵が描けない人でも制作進行という仕事があったり、きちんと分業制を理解すればアニメ業界では何か仕事は見つけられるはずだと僕は思っています。
特に絵が描ける、もしくは上手くはないけど描くのが好きな人なら、その分業制の中でここだったら自分にもできるという仕事が必ずあります。
それを高知の人にはまず知っていただきたいですね。
アニメは今、成長産業なので仕事は山程ありますが、やり手が少ない現実があって中国や東南アジアに仕事が流出しています。
それを我々が日本の地方に引き戻したいと思っているので、ハードルを高く感じないでアニメーションを仕事にすることを考えてみてほしいなと思っています。
そしてそれを理解してもらえるように我々も広報活動をしていきたいと思っています。
ーーなるほど。得意なところを仕事にできることを伝えていけたらいいですよね。
伊藤陽介さん:経験はなくてもアニメが好きだったりとかエンタメ業界に入りたい人にもチャンスがあるんじゃないかなと思いますし、高知の人にもそういうことを知ってもらいつつ何か一緒にできたらうれしいですね。
ーー技術がそれほどなくてもできる仕事からやっていって次のステップに踏み込んでいくこともできるんですね。
いま入社された方に任せようと思っているお仕事は具体的にどのような内容なんでしょうか?
宇田さん:デジタルリペアといって東京で制作した一部を高知で修正する作業やビデオコンテの素材を作る作業ですね。
あとは東京だと人手が足りなくて自社ではできないという会社も多いので、そんな会社のちょっとしたお困りごとを高知で拾っていきたいと思っています。
高知のスタッフとしてはアニメの制作工程を勉強できる機会でもあるので、仕事をしながらアニメの勉強もできると思います。
当面はどちらかというとお手伝い要素が強い仕事から始めていただき、本人の適性を我々も含めて見極めていきたいと思っています。
伊藤暢啓さん:東京は主要メンバーがそろっている中で作業ができるので、全体の業務がわかりやすいと思います。
それにたいして高知は、東京ではどのようにアニメが作られているのかを勉強しながらスキルアップできる仕事をまずは高知でやっていこうと思っています。
それが先ほど言ったデジタルリペアですが、たとえば30分枠のアニメーションは3,000〜5,000枚の絵で作られていて、それを東京では作画からフィニッシュまで1ヶ月以内で作り上げます。
その工程の中で中国などにも大量に外注するんですが、その中にはミスがある絵がたくさん上がってきます。
そのミスをできるだけきれいに修正して放送しなくてはならず、この作業を高知で受けようとしています。
この作業をすることで東京でどういう作品をどんなクオリティーで作っているかが理解できると思います。
東京でやっている作業を理解しながらスキルアップができる仕事を高知ではやっていこうと思っています。
自分の名前が載ることが一番の喜び
ーー仕事をしながら自分に向いていることを極めていける道がありそうですね。
このお仕事の一番のおもしろさややりがいは何でしょうか?
伊藤暢啓さん:自分が関わった作品が放送されたり劇場で流れてクレジットに自分の名前が載ったり、そこが一番の喜びじゃないですかね。
アニメ業界は下っ端まで名前を載せてもらえるので、幸せな業界だと思いますよ。
伊藤陽介さん:クレジットに載ると、たとえ自分が死んだとしてもその作品の中では生き続けるんですよね。
ーーなるほど、たしかにそうですね。
自分が生きた証というか、アニメが好きで携わってそれが後世にもつながっていくのはすごいことですね。
クリエイティブなお仕事なので、世間に注目されたときの達成感もあるのかなと思います。
宇田さん:アニメーションのモチベーションの1つは作品に関わって、結果的にそれがヒットすれば、なお幸せになれるんじゃないかと思います。
アニメ業界に入ってしまえば、意外とそのチャンスは少なくないと思っています。
東京と地方には歴然としたクリエイティブの差があるのかなという先入観をもっていたのですが、高知でスタッフを採用してみてその差はほとんどなかったことに気づきました。
東京と地方の格差はスキルではなく環境の差だと気づき、是正できる部分が多くあるかなと思っています。
高知にきてまだ3ヶ月ほどですが、スキルレベルの差がないことに気づけたのはいい意味での誤算でしたね。
ーー会社として高知でアニメ業界に携わりたいと思っている人に提供できる価値でもありますよね。
宇田さん:そうですね。やる気と一定の能力があれば活躍できる環境は用意できますし、それが会社の役割だと思っています。
ーー高知や地方で能力のある人が目立てるチャンスはありますよね。
伊藤陽介さん:地方で新しく立ち上げた会社の方が早いスパンでステップアップができる可能性があると思います。
ーー将来、もし高知で育てた人材が「独立したい!」となったときに応援するような文化はあるのでしょうか?
伊藤暢啓さん:アニメ業界は自社だけでアニメを作っているスタジオはなくて、のれん分けで会社を作っていく歴史があります。
独立をしてもまた一緒に仕事をする関係を作っていくのがアニメ業界です。
それは高知でも変わらないと思っています。
ただ、東京と地方で違うと思う点は、東京は作品を作るために人が必要だという感じで、プロジェクトが先に立ち上がって人を集めます。
作品ありきな部分が多いので、クリエイターはフリーランスの比率が非常に高いです。
一方で、地方では人ありきで何が作れるかを考えるべきだと思います。
だからちゃんと社員を雇用して、育てた人材の中でどんな作品ができるかをチャレンジしていくのが地方のスタジオが取るべき手法だと思っています。
ーーなるほど。作品が先か人が先かということですね。
イメージとして低賃金になってしまう、単価が安くなってしまうことはあるのでしょうか?
伊藤暢啓さん:フリーランスで中心メンバーとして雇われている人の中には高年収の方もたくさんいるので、全部が低賃金とは思いません。
しかし、見習いから入ってきた人たちは1枚いくらの業務委託のケースがあるので、枚数を描けないと低賃金になってしまうのは仕方ない部分もあります。
職人的な育成期間があるからなんですよね。そこは世間から誤解されているところでもあると思います。
5,000枚の絵を描くって途方に暮れるじゃないですか。
この量産システムを作ったのは日本だけですし、そのおかげで日本のアニメーションの世界シェアは物凄く高いのです。
高知では、魅力的な賃金体系で働いていただける環境を作っていきます。
ーーどの業界でも技術を身につける上で共通する部分ではありますね。
高知はオンオフの切り替えができる場所
ーープライベートについて少しお聞きしたいのですが、休みの日は何をして過ごされているんでしょうか?
宇田さん:10年以上経営者をやっているので土日の休みもなく、365日仕事のテンションが続いていましたが、高知に来るようになって東京から離れることで気分転換になっています。
もう少し高知のスタジオが落ち着いたら、ちょっと街から離れた所まで行って、自然にふれながら気分をリラックスしに行きたいですね。
高知に来るときの一番の楽しみは何を食べようか考えることなんです。(笑)
ーー東京のクリエイターの方たちをパッケージツアーなんかでアテンドできたらおもしろそうですね。
宇田さん:まさに大月町でそういうことをしたいなと話していて、僕も2ヶ月に1回ほど行くんですが、クリエイティブな仕事をする人にとってはすごくいい環境だと思います。
自然が溢れている一方で、インターネット回線はめちゃくちゃ速いんですよ。
ローソンのWiFiも速くて驚きました。(笑)
ーー自然の中でデジタルデトックスもできるし、仕事ができる環境も整っているんですね。
ちなみにアニメは観られないんですか?
宇田さん:なかなか全ての作品を見る時間がないのですが、最新のアニメ事情は気になるのでネットでクレジットだけ確認して、誰が何をやっているのかだけ把握するようにしています(笑)
クレジットを見るのは趣味ですね。
職業病なのか、なかなかアニメを楽しんで観れないんですよね。
「作画がすごくいいな」とか「この背景は誰がやってるんだろう」などいろいろ気になることが多くて、内容があんまり入ってこないです。
伊藤陽介さん:宇田さんと同じくクレジットは確認しますね(笑)
旅行やドライブが好きなので、いろんなところに行くのが趣味ですね。
最近は中津明神山の天空の林道に行きたいなと思っています。
そういう壮大な景色が広がる場所に「この監督をこの場所に連れてきたらおもしろい作品ができそうだな」とか考えますね。
ーー結局仕事のことを考えていますね・・・(笑)
伊藤暢啓さん:プライベートの思考は人との出会いを常に求めて動くことですね。
映画祭やイベントに行くなど人と出会えるところにできるだけ行くようにしています。
高知との出会いも5〜6年前に開催された交流会に参加したことがきっかけですし、人との出会いの場を作ることが活動のメインですね。
あとは映像が好きなので、暇があればちょこちょこ映画館に行きます。
ジャンルは問わず何でも観ます。
アニメに関していうと、新作の注目作品は1話だけ観て、最後のクレジットは必ず確認しますね。(笑)
ーークレジット確認は職業病ですね。笑
本日はありがとうございました。